とにかく大切に
育ててほしい。
赤ちゃんを。
取材させていただいた
坂本助産所
坂本フジヱ先生
助産師の大きな役割は命をつなぐこと
AMOMAスタッフ 東郷:
「本日はお時間いただきありがとうございます。
先生の著書を読んでぜひ先生にお会いしたいと思い、ご連絡をさせていただきました。
福岡のスタッフにも貸しましたが、みんな本当に感動していて。
ですので今日は先生にお会いできるのを本当に楽しみにしていました。先生は70年近くお産に携わっていますが、昔と今の違いで何か感じることはありますか。」
坂本先生:
「私が助産師になって取り上げた方がもう今や、72、73歳ですからね。ここで産みたいと訪ねてきてくれた若い方に『ここ、なんで知ったん?』と聞くと、『私のとこのおばあさん、お父さんも先生のところで生まれました』と言われます。もう今は、3代目どころではなく、4代目です。ある地区の人は生まれた時から全員知っています。
昔は双子も逆子もみんな私たちがとりあげたんです。逆子は足から出てきて。逆子は最後、顎がひっかるので、2本の指をお口にいれて、きゅっとしたらもう出るんです。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「きゅっとですか!
今は逆子や双子は帝王切開ですもんね。」
坂本先生:
「でもこの頃のお母さんは帝王切開のほうが楽なんです。確かに危険もありますけれど、しっかりした腕の先生であったら、危険を承知で自然分娩するのではなく、帝王切開をしたほうがお母さんには親切ですね。
この頃は助産所で初めから終わりまで順調にできる方は本当に少ないです。
だんだんと出産の年齢が高くなってきてるしね。
だからほんとにね、自然のお産というのは本当に少ないです。それに少子化でしょ。
助産師も免許をもちながら、勤務するところがないので気の毒ですね。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「うちには3人子どもがいて、長女が10歳なんですけど、将来助産師になりたいと言っています。」
坂本先生:
「そういうお子さんが訪ねてきてくれることもあります。この間も岡山からお母さんが連れられて、まだ小学2年生の子が来てくれました。私の本を読んで何か感じてくれたみたいでね。嬉しいですね。
助産師というのは命をつなぐ…一番大きな役割は命をつなぐということです。命をつなぐために、70なん年と私はやってきたんやなと思うんです。この仕事がなければ国がつぶれてしまうということをやってきたんやな、と思うこともあります。そんなことを寝てて考えていて…夢かまぼろしか、ようわからんようになることもあります(笑)。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「本当にそうですよね。赤ちゃんが初めて、この世に出てくるための一番最初のお手伝いをしていただくのが助産師さんですもんね。私も、妊娠中から出産、産後まで一番支えてもらったのは助産師さんでした。」
痛みの本質を知らないから出産が怖くなる
AMOMAスタッフ 東郷:
「今のお母さんたちのお産の様子はどのような感じですか。昔とは違いますか。」
坂本先生:
「この頃の人は遠慮なしに、ものすごい大きな声を出しますね。そんなんやったら表通っている人に警察に言われてしまうで、というくらいです。昔はそんな声を出すということはなかったですね。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「私も3人産んで、なぜか3人目を産むときが本当に痛くて、わーってずっと叫んでました。
それは昔の人が、我慢をしていたということですか?」
坂本先生:
「特に我慢をしているということではないです。
お産の痛みはね、収縮の痛みですからね。お産の痛みは大便するときの、きゅーっとする時のあれの大きいやつです。だから病気でお腹が痛いというのと本質的に違うんです。
だからね、私は痛いのが怖いという患者さんに『お産の痛みというのは終わったら、全部今までの痛みが消去されてしまう。つまり、積み上げていくもんではないんや。それを考えながら生みましょう』とお話をすると静かになります。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「なるほど。怖さだけが先立つから余計に怖いと感じるのですね。」
坂本先生:
「怖いというのは、そのあたりのことを誰も説明せんということがあると思います。
出産最後の2~3分は夢中でね、皆さんわーわー言うのですが、実はその時は痛みはもうないんです。
生まれたら、もうどんなにわいわい騒いでいたお母さんでもあの声どこからでたんやろ、というような気持ちになるくらい静かになって、涙出しながら、にこにこしてるんですよね。
神様がそうしてくれるんやと思いますね。でないと後に続いて子どもを2、3人産めないもんな。こういうこと考えながらやれば、昔の人と同じこと、あまり声出さんとできると思います。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「痛みが怖い人には無痛分娩や帝王切開ということを考える方もいますね。」
坂本先生:
「痛みを痛みとしてとらえるから、無痛になったり、帝王切開になったほうがいいとなるんだけど、でもその本質をちゃんとしたら、そんなに怖いもんでもなんでもないですね。
昔は家庭でお産をするのが普通ですが、私も家庭分娩を50年ばかりやってきたんです。
その時は、お母さんの手を子どもやおばあさんがにぎって、『お母さん、しっかり頑張って』といって、お母さんはきゃーとも言わずに生んだものです。」
人間として生まれたことは本当に有り難い
AMOMAスタッフ 東郷:
「こちらでもお父さんが立ち会ったりするんですか?」
坂本先生:
「立ち会いますよ。茶髪のお父さんでも、涙ながしますね。それに立ち会うの嫌やと言っていた人も、実際にはじまると一生懸命に面倒みてやってくれます。
この頃のお父さんは本当に親切ですね。家内に変なこと言ったら、どこか行かれてしまうと困るからときついことよう言わんですね。
むしろお母さんから『お父さんがやかましいのが、かなわん。ぐちゅぐちゅ文句言うんや』という相談をうけることがあります。
そういう時は、お父さんええこと言ってくれてるなぁと思って子どもと一緒に『さぁお父さんのお話し、ちゃんと聞きましょう』と言って、話聞いたら変わるでと話しますね。
何事もこっちの受け止め方を変えたら変わりますね。
なんでも自分からいろんな問題はおこっているように思ってます。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「なるほど!私もその言葉、肝に銘じます(笑)
そういえば、この部屋にはエコーなどの機器もありますが、昔は、エコーなんてなかったですよね?今は、先生もエコーを使われたりするのですか。」
坂本先生:
「今はエコーを使ったり、心拍の機器を使っていますが、以前は私の手や耳の感覚でこんなもんやとお伝えしていたものです。いまだに機械では体重が3000グラムくらいと示しても、私がお母さんのお腹を触って、3200グラムくらいと思ったら、いまだに私の手の感覚のほうが確かですね。
実際の赤ちゃんを触るからな。いくら太った人でも、贅肉とったらわかりますからね。
赤ちゃんを触りながら『ここに頭あって、おしりあって、手があって』って話すと、みなさんびっくりしますよ。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「それはすごいですね。今の助産師さんは感覚でわかっている方はそういないかもしれないですね。」
坂本先生:
「今の若い助産師さんはわからないと思いますよ。私は今でもお腹に直接耳をあてて、心拍を聞いて、その音でもう2、3日で出てくるなと思ったらその通り出てきます。本当、夢物語みたいでしょう(笑)。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「今は予定日が近づくと、子宮口の開き具合やお腹の下がり具合で、『もうそろそろですね』と言われますが、先生のところに来たらあと何日で出てくるというのが分かるんだったら、気持ちを含め色々な準備ができますね!特に、2人目、3人目の出産は色々と準備が必要ですしね。
それこそ、昔のお母さんは7人、8人産む人も沢山いましたよね。私の父は5人きょうだいだし、母は6人きょうだいです。出産の人数というのも今とはだいぶ違いますよね。」
坂本先生:
「そうですね。7、8人どころか、13人産んだという方もいます。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「13人ですか!?」
坂本先生:
「はじめはおろします、ということで来たんですけど。私も7人、8人目だったらそういうこともわかりましたけど、13人目ですからね。『あんた、ゆるゆるになった子宮にメスいれて、なんかあったらあんたの命が危うくなるで』と止めました。
あとでそのお母さんから、『先生、あの時産んでおいて良かったわ』といわれました。
今のお母さんは、年齢が高くて産むので年子で産んでもいいくらいですね。何人ものお母さんから『なんであの時、うまなんだ』という声を聞くこともありますね。
あと子どもをあまり産まなくなった理由になるかわかりませんけど、昭和50年ごろから子どもが昔より頭が大きくなったように思います。
今は頭囲が34センチくらいが標準になってきて、するっと生まれるんですけど、その前の準備期間である前駆陣痛が長い。3日くらいあるんです。産むまでが長い。だから産む人は苦しい。
それに昔は本当にお猿に近い顔だったのが、今は生まれた瞬間に「どやっ」と大人の人間を小さくしたような顔で出てくるようになりましたね。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「栄養が良くなったとかそういうことが考えられるのでしょうか。」
坂本先生:
「どうでしょうね。社会の環境とかいろいろが影響しているように思いますね。
どんなに医療がすすんだとしても、まだお腹の中のことは宇宙のかなたですよ。
なかなかね、まだどんな大先生でもいまだに予測は立ちませんもんね。
ある方が人間の年に38億年という年を足して人間の年、勘定したらちょうど良いという話をする先生もいますわ。
38億年海の中でごちゃごちゃごちゃごちゃ…ってやって、海からようやく7億年前くらいにアフリカで人間らしいものがでてきた…。
自分たちがこうやって生きてきたことは不思議なんです。なかなかありえん話なんです。
みんな親に対して勝手に産んでというけれども、なかなかねこの世に生まれてきたということはほんまにありがたいのです。
人間に生まれてくるということは有難い。今では簡単にこの言葉を使いますけど、本当になかなかないことです。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「そうですよね。ありがたいの「がたい」は難儀の難という字ですね。」
坂本先生:
「だからね、1日1日神様に預かった体と思って、自分を大切に生活していくことが大事ですね。」
生まれて半年、半年でいいから力を注いでほしい
AMOMAスタッフ 東郷:
「AMOMAでは「母乳なんでも相談室」という電話やチャットでお母さんの相談を受けることをして、毎日たくさんのご相談をいただくのですが、先生のところにも相談がありますか。」
坂本先生:
「ありますね。いまだに夜『先生、赤ちゃんが泣いて全然寝てくれないのでもう無理です。だから今からそちらに行ってもいいですか?』って電話かかってきますよ。母乳です、という話だったら、『母乳ならずっとお乳をくっつけて抱きしめてなさい。赤ちゃんが先生やで』と話すと、落ち着きます。
本当に今はもう、一つの家庭、一つの家庭というのがみな孤立していますね。
今は『おばあちゃんに聞いたらこんなん言ってた』という話をする人はおりません。
その代わりにインターネットで調べてますが、それでみんな確かな返事がもらえているか、というと、そうではなく、そやからみんな困ってうつになることも多いのだと思いますね。
だから本当の意味での自然の子育てということをしていることは、ほとんどないです。
だから本当の意味の自然の子育てというのは、取り戻すまでにこれからまた100年かかりますね。終戦後、70なん年きたでしょ。その結果が今でてると思います。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「今のお母さんのほうが悩みが深いですか。」
坂本先生:
「最近のお母さんは勉強しすぎで悩みが深いですね。でも基本的なことを知らない。だからこちらの言葉がすっと入らないことも多いです。インターネットで私よりも色々知っていますね。
ここで産んだ人はそんなに相談はされないのですが、ここで産んでない方の相談が多いように思いますね。最近は食生活が変わっているのもあって、おっぱいが詰まることも多くありますね。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「今のお母さんは母乳で育てたいという方が多いように思います。でもお母さんの母親(おばあちゃん)はミルクが出始めた頃に育てているので、母乳で育てたいという話をすると、ミルクでいいじゃない、と言われてぶつかるといったこともあるようです。
AMOMAとしては、ミルクでも母乳でもどちらでも赤ちゃんが元気で育てればいいじゃないという気持ちでお母さんたちと接しています。」
坂本先生:
「柔軟さは大事だと思いますね。。『こうでなければ、いかん』ということはないです。凝り固まった気持ちでやるといろんなトラブルがおきると思います。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「長くお話ししていただいて、ありがとうございました。気づけば2時間半もお話しをしていただきました。最後にお母さんたちにメッセージをいただきたいです。」
坂本先生:
「とにかく大切に育ててほしい。赤ちゃんを。
自分と赤ちゃんとの信頼関係を築くのに、生まれて半年、それに力を注いでいただいたら、あとはもう本当に、世話ないです。
ですから、その順序を間違えたらだめなんですよ、あのその順序、逆転したりしたら効き目ないです。
もうお母さんと赤ちゃんとが、本当に赤ちゃんが信頼するという気持ちは最初の半年が大切です。
それだけやってくれたら、ほっといても、ご自分もその延長線の上でやっていけますから、半年…1年はどうしてもお母さんの手で育ててほしい、と思いますね。」
AMOMAスタッフ 東郷:
「先生の言葉一つひとつが心にしみました。
ありがとうございました。」
私のオフショット
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amomaのハーブティー
撮影中、AMOMAのハーブティを飲んでいただきました。
『こんなん初めてしったわ!鼻に抜ける感じがいいなぁ。ゴボウシ飲むより、ずっと飲みやすいな。お母さんたちにすすめとくわ』 -
先生の口癖
赤ちゃん、なっとうな。気分ようしてるか
なっとうなは先生の住んでいる和歌山の方言で「どうですか」の意味。
お話を終えて
すべてのママに届けたい坂本先生の言葉
ずっとお会いしたいと思っていた坂本先生とお会いし、直接お話をさせていただく中で、やはり70年お産に向き合い、約4000人の赤ちゃんをとり上げてきた先生から発せられる言葉の一つ一つは、今のママに向けた大切な言葉であり、私自身も今このタイミングでお話ができたことはすごく良かったと思います。
ぜひ、今からママになる女性、今子育てを始めたばかりのママ、すべてのママに坂本先生の言葉が伝わってることを願っています。
AMOMA STAFF東郷麻妃子
10歳・7歳・3歳(取材当時)の3姉妹の母であり、AMOMAの代表も務める。
母乳不足や乳腺炎で悩んだ経験を持ち、AMOMAを通して、授乳期ママが笑顔で授乳期を過ごすことができる様にするには?と日々奮闘中。