子どもの心と体

自身の発達障がいを見つめて…「1つでもいい思い出があれば乗り越えられる」

2016.02.24

AMOMA編集部

妊活中~産後の育児期は、かけがえのない喜ばしい時間であるとともに、時には不安や心配の方が多くなることもあります。“AMOMAよみもの”を通して少しでもその不安を解決し、笑顔で過ごすお手伝いができればと願っています。

先日明蓬館SNECのセンター長である、日野公三先生の講演を聞きに行ってきました。SNECとは特別支援教育を行う、通信制高校補習センターです。

テーマは、「教育現場から見えてきた“発達障がいを持つ人の可能性”」。

講演で聞いた少年たちのお話を紹介しながら、発達障がいを持つ人が自身の障がいをどう受け入れ、周囲としてどのように支えるのかを、考えたいと思います。

「普通の人として生きて欲しい」親の願いと自分らしさの狭間で

現在デジタルハリウッド大学院に在学中の岸野 喜世隆さんは、自身の半生を振り返り、アスペルガー症候群(自閉症スペクトラム)を受け入れた経緯について述べてくれました。

講演の様子

一番つらかったのは、中学でのいじめ

中学校でいじめにあっていたという岸野さん。両親が学校側と話し合いましたが、中学側はあくまでも「本人の被害妄想」だと、両親に説明しました。

岸野さんも、当時は現実におこったいじめと自分自身の考えの整理・本来の事実の確認ができない状況で、精神的に不安定に。

両親も学校側も全く判断ができない状況で、岸野さんはフリースクールの中等部に通うことになり、本来の学校は休学という形をとりました。

「その頃は何をするにも自分の失敗経験を思い出し、それが何倍にも膨れ上がって、無力感に襲われた。幼稚園の頃から「普通」への過度なあこがれがあった。普通を目指せば親も喜ぶのではないかと考えることも…。

しかし、それは自分の中で勝手に作った「普通」で、余計に問題が大きくなっていった。」と岸野さん。

転校を機に変わる

学校_転校

高校は、サポート校(フリースクール)に居場所として登校して、提携する通信制の高校に入学したそうです。それからいきいきとするように。

障がいと向き合ったのは、高校3年生から。

「将来の進路を決めるために、自分を見つめなおそうと思った。

自分自身をキャラクター化した絵本を作ることで、自分を客観視でき、障がいを受け入れることができた。」

岸野さんが作った絵本の主人公は、竜。想像が極端に飛躍してしまいがちな自分と、想像上の生き物である竜を重ね合わせた。

他の人とは違う特性を持ちながら、それでも「他の人と同じように生きていきたい」と強く願っていた自分を表現したそうです。

絵本には、自分をいじめた子どもたちが自分をなぐった後「笑顔になる」様子や、岸野さんが「自分さえ我慢すればみんな幸せなんだ」「それなら自分を殺そう」と心を殺す様子が、竜の体に鎖をぐるぐる巻きにした絵で表現されていました。

その後竜は、気の合う仲間たちと出会い、「こんな自分を受け入れてくれる場所があるんだ」と信じられない喜びに包まれます。

自分の人生を絵本にすることで、「自分は確かに人と違うかもしれないが、自分にしかないいいところや、自分を受け入れてくれる居場所がある。」それに改めて気づいたのです。

「いい思い出が1つでもあれば乗り越えられる」

竜600

岸野さんは辛いことを乗り越える方法として、「なんでもいいから自分の自信になるような思い出をつくること。そうすると、どんなに辛いことがあっても乗り越えられる。」と述べていました。

岸野さんにとってのいい思い出の1つは、その絵本です。絵本が周りの人に絶賛されたことで、大きな自信につながったと言います。

自分がどんなことが苦手でどんなことが得意か、はっきりと自覚した今、今後は自分の才能や長所を活かして、社会の役に立ちたいと言います。

今同じように苦しんでいる中高生に、自分の追体験をしてもらうことはできないか。教材として応用することはできないか、と模索中だそうです。

教育現場でのヒント

学校

また、教育現場では、「自分にできる方法を見つけてくれる先生の存在がありがたかった」とも。

漢字を書くのが苦手だった岸野さんは文章がすらすら書けなかったそうですが、パソコンで文章をうつことを教えてくれた先生がいたそうです。

ひらがなで打てば漢字に変換でき、また修正が楽なパソコンでなら文章を楽しく書けるように楽しくなり、今ではデザインや文章を合わせてポスターを作ったり色々なことに挑戦されているようです。

できないことをできないと決めつけるのではなく、できない理由を探して、解決してあげる。そんな風に支えてあげれば、きっとできることはたくさん増えていくはずです。

その子にしかない”才能”や”個性”を見つけて伸ばしてあげることができるといいですよね。

社会で活躍する人々

社会

著名人も多い

実際、社会に出て立派に働いている方もたくさんいます。著名人でも発達障がいのある方は多いです。スティーブ・ジョブズは注意欠陥多動症、スティーブン・スピルバーグやウォルト・ディズニーはディスレクシア(読み書きが困難)、アインシュタインは自閉症だったとも言われています。

長所もたくさん

多くの障がいはそれぞれ違う特徴があるので一概には言えませんが、長所もたくさんあります。

自閉症スペクトラムの方は、多くの人が見逃しがちな細かい部分に気づいたり、ルールをしっかり守ってくれる、真面目に働いてくれるなど、仕事で活かせる長所がたくさんあります。

ジョブサポート(同梱物の準備をしてくれているジョブサポートの方々。右側はスタッフの方。)

実際にAMOMAでも、障がい者の就労支援をしているジョブサポートさんから5名ほど来て頂き、一緒にお仕事をしています。私達が気づかないようなパッケージのわずかな印刷のズレなどに気づいてくれる、力強い存在です。

注意欠陥多動症の方は独自の視点や発想力があると言われています。日野先生は、「発達の特性を障がいとみるか、あるいは強みとみるかで子どもの人生は大きく変わってきます。」とおっしゃっていました。

偏見と気づき

気づき、ノート

実際講演を聞くまで、発達障がい者と自分は違う存在だと、無意識に偏見を持っていました。偏見を持っていることにさえ、気づいていませんでした。

しかし、「整理整頓ができない」「スケジュール管理が苦手」などはとても共感できる悩みで、他にも「普通の学校は先生によって言うことが違って混乱する」「本を読むのが難しいのは、自分が読んでいる行がわからなくなるから」という特徴などは、説明されれば理解できると感じました。

何より、差別されたりいじめられて傷つく辛さは、どんな人も変わりません。相手のいいところを見て接することができる人間になりたいと強く思います。

多くの人も、わざと偏見を持っているわけではなく、たいていは「自分が偏見を持っていることに気づいていない」「情報不足で誤解している」そんな理由で、接し方を誤ってしまうものだと思います。

これからも、幅広い情報をみなさんに伝えられれば。社会のどんな方も生きやすい世の中になれば。そんな使命感を改めて持たせてくれた講演でした。

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今回講演をして下さった日野先生がセンター長をされていらっしゃるSNECは、障害・認知特性を理解した職員がおり、生徒が自尊心を失わずに身辺の自立や精神的経済的自立へ向けて学習し、目指す進路が実現する生徒を増やす取り組みをしています。

全国にあるようですので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
>「SNEC(スペシャルニーズ・エデュケーションセンター)」

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