子どもの心と体

子どもが発達障がいと診断されたら… 就労支援の現場から

2018.09.18

AMOMA編集部

妊活中~産後の育児期は、かけがえのない喜ばしい時間であるとともに、時には不安や心配の方が多くなることもあります。“AMOMAよみもの”を通して少しでもその不安を解決し、笑顔で過ごすお手伝いができればと願っています。

最近急速に認知度が高まってきた「発達障がい」。もし自分の子どもが発達障がいと診断されたら?早期支援の必要性とは?

今回はAMOMAでもお仕事を依頼している、障がい者のはたらく拠点 ジョブサポート郷口の課長であり、また社会福祉士・精神保健福祉士でもある成冨杏奈さんに、色々とお話をお聞きしました。

障がい者の就労支援とは?

ジョブサポートでは障がい者(身体障がい、知的障がい、精神障がい)の就労支援を、三段階の施設で行っています。

履歴書

企業への就職支援

履歴書の書き方や面接の仕方、就職活動のサポートなど、職業訓練所のようなもので、2年以内に就職を目指す施設。

施設内での就労支援

通ってきて仕事をする施設。企業から商品サンプルの梱包などの仕事を受注し、ジョブサポートのスタッフが仕事を円滑に進められるようサポートする形です。

いずれは就職したいが、2年というハードルが高いな、マイペースで進みたいなという方向けの施設です。

AMOMAでお仕事をお願いしている施設ですね。今では、4名がAMOMAオフィスに来てお仕事をしてくださっています。

将来の就労支援

働く前の段階、「ある場所に通う」ことから始める支援です。高校生を対象とし、放課後や休暇中に安心できる場所を作ります。

また、将来「働く大人」になるためのトレーニングや体験をする場所としての役割を果たします。

発達障がい者を取り巻く環境

安心している赤ちゃん

―最近の状況は?

社会に出る時、出た後に「何かうまくいかない」と我々のような支援機関に相談に来られる方や精神科クリニックからの紹介で来られる方が増えてきました。

職を転々としたり、どうすればいいのかわからずに引きこもってしまったり…ご本人もご家族も混乱し、悩んでいます。

「自分の努力が足りない」「自分が悪いんだ…」と自分を責める気持ちや挫折感を持ってしまっていることもあります。

挫折

―社会に出る時、出た後のつまづきとは?

子ども時代は家庭と学校とで、そこまで複雑ではありません。社会に出て、時間管理や段取り力が求められ、年齢や立場が様々な周囲との協調などを求められるようになると、それまでの方法では対処しきれないことが多々出てきます。

うまくできない部分がありながら、なんとかその人なりの方法で社会に適応しようと頑張ります。ただ、その奮闘の中で疲れ切って、適応障がいやうつなどになってしまう。これを「二次障がい」と言います。

支援施設などにキャッチされるのは、二次障がいが現れてからが多いのが現状です。「もう少し早くに、この方のSOSをキャッチする場があれば…」と思うことが多々あります。

家族

―「もう少し早く」と言っても、なかなか子どもの発達障がいを認められないお母さんも多いようです。

成冨さん「認めるには、大きな勇気がいると思います。みんなが優しく受け入れてくれるとは限らないからですね。

どんな風に周りの同級生やその親御さんに開示していくか、いつこの子に言ってとか…慎重に検討する必要があります。子ども自身も、自分が人と違うこと、障がいがあること、なんで?とショックです。

ただ、その子のニーズに応じられる状態を早くから作っていけば、周りがその特性を認めながら、その子も自分のことを理解しながら世界を広げていく地盤を作れると思います。それに、外国語やスポーツでもそうですが、子どもの方が吸収力が高いですよね」

適切な支援とは?

教える

―そもそも適切な支援というのは、どのようなものなのでしょうか。

例えば、人の列に割り込んで注意されて、癇癪を起してしまう。目立つのは「癇癪を起こす」行動です。癇癪を起こさないように別の人が「あなたが並ぶのはここです」と毎回教えるようにする。

これで癇癪は起こさないかもしれませんが、この子は「ここ」と言う人がいないと並べなくなります。困った行動のみに着目して、周囲が叱責という形や代わりにやって解決してしまうと、その子が自分で物事を解決する機会を失ってしまうことになります。

また、「全然手が掛からない子」もいます。目立つ行動がなく、見過ごされがちです。

感情や考えを人に伝えようとする意識を育てるためにも、困ったら相談する、相談したら解決できたという経験を重ねて、周囲の人との信頼関係を築いていくことが、将来社会に出る力の基礎となると思います。

―ジョブサポートさんでもさまざまな支援をされていますが、適切な支援をすると、自分でできることが増えていきますか?

デスクワーク

成冨さん「何かできないことがある。そのできないことが障がいでできないのか、経験がなくてできないのか、環境に問題があるのか…一歩引いて見ます。

例えば、データ入力の量をこなせない方がいました。何が起こっているかを観察していたら、原票の束を見つめて考え込んでいます。

「もしかして、時間内にできるか心配なのですか?」と聞くと、「そうです。」と。見通しが立てられなかった。時間の整理ができず段取りが組み立てられないのは発達障がいの特性の1つです。

この場合は、この方の作業時間を測り、30分あたりの作業量ずつ渡すと安定した量をこなせるようになりました。

チャーハン (1)

また、ジョブサポートでは、働く場だけでなく、家事の練習の場を設けています。家事は段取り力、働く力を養うのに有効です。

でも家事は曖昧なところが多いし、人によってこだわりや、状況によって変える臨機応変な対応が必要。それは発達障がいの方には苦手な要素です。

親御さんも他の家族の面倒も見ないといけないから、家事をゆっくり任せられない。

それで、マンションの1室を借りて、作業訓練とは別のメニューで家事を訓練する場を作っています。特に人気があるのが料理です。始まりは今あるものが何か調べるところから、終わりは後片付けまでします。

できるだけ自宅でのお母さんのやり方とばらつきがないようにして、家に帰ってからも実践してもらえるようにご家族へご協力を依頼しています。

料理 (1)

作るまでの間に「何作る?」とか密なコミュニケーションが取れるのもいいですよ。買い物では予算内に収められるよう物の値段を考えたり。

そういった積み重ねをしていくうちに、ご家族のために宅配ピザを頼んだり、ちょっとしたことを手伝ったり、家での行動が変わってきます。みんな人の役に立ちたい、貢献したい気持ちはあるけれど、どうすればいいかがわからないんですね。

守られる立場から、守る立場になれるよう、家族を守るための役割を1つずつ担えるように、そのきっかけを作れたらと思っています」

―実際にジョブサポートから就職している方はどの程度いらっしゃるのですか?

「施設内就労から外部に就職する方は少ないですが、企業への就職支援では、2年の間に就職できる人は約50%程度です。そのうち発達障がいの方は約35%です。できること、やるべきことはまだまだはあると感じています。」

最後に

仕事_やりがい

―成冨さんにとってジョブサポートで働くやりがいとは?

成冨さん「社会経験がなくても働くのが厳しいというのは何となく知っていて、なかなか踏み出せない方がいる。さんざんうまくいかなくてヘトヘトになって来る人もいる。

ほとんどの方が失敗することに敏感です。失敗しても怒られない、安心してチャレンジできる環境づくりをしています。

一歩踏み出したら「できた!」につながる。できることが増えるともっと「あれやりたい・これやりたい」という気持ちが芽生えてくる。気がついたら成長していた、そういう姿を見ることがやりがいになっていますね。」

―最後に、読者の方に伝えたいことはありますか?

成冨さん「まだまだ障がいに対する理解は少ないと感じています。

ジョブサポートに入社したばかりの時、先輩に「障がいだけで判断しないでね、その人のことをちゃんと見てあげてくださいね」と言われました。

それぞれの子に個性があっていいところがあるから、発達障がいを十把一からげにせず、その子を理解してほしいですね。」

成冨さん「また、逆に情報の氾濫という状況が有ります。インターネットで検索すると色々な情報が飛び込んできます。心無いことが書かれていることも多々あり、理解を阻んだり、間違った情報に惑わされることもあります。

各県には「発達障害支援センター」が設置されています。働くことには障害者職業センターやハローワークの専門援助部門などもあります。積極的に活動されている親の会もあります。

ぜひ安心して情報を得たり、共有できる場を見つけて欲しいと思います。」


長年福祉業界で働かれている成冨さんだからこそ見てきた色々なこと。とにかくその人にあった適切な支援を早くから始めること、障がいを正しく理解することが大切だと言います。この記事によって、少しでもそのきっかけになればと願っています。

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